言われないと人の気持ちも分からない
仏の顔も三度と言いますが、モトオは、やってはいけない事を何度も繰り返す人でした。
なので、初めは笑って許していた私もいつの間にか怒るようになり、終いには許せなくなっていました。
更に悪いことには、彼には悪いことをしている自覚がないので、私の努力は水の泡。でも、世の中には、普通に見えて実はそう、という人はごろごろいるのでした。
モトオが家族に八つ当たりする理由はいろいろありますが、一つには『人の気持ちが分からない』というのが要因としてあります。
発達障害と診断された際、「彼はなんでも言われないと分からないから」と医者から言われたので、分かりやすく伝えようと頑張った時もありました。
けれど、そもそも人の話なんて聞かない人だったので、それも無駄に終わりました。
人を傷つける人
ある日、犬と子供と楽しく遊んでいると、物凄くおかしなことが起きて、私は笑い転げていました。
すると、そこへモトオがやってきて、私に言ったのです。
モトオ「自分の顔、鏡で見たことある？」
ややこ『へ？』
唐突な質問にきょとんとしていると、彼は眉を寄せて、こう言ったのです。
モトオ「ひどいよ」
ややこ「なにが？」
と聞くと、
モトオ「シワ。 顔のシワ、ひどいよ。 見たことある？」
と言うのです。楽しい雰囲気は一変。顔がひきつりました。
「シワって、そりゃあ、笑えば、シワもできるでしょ。 歳もどんどん取ってるんだし」
と言うと、
モトオ「そうじゃなくて、ひどいんだって。 鏡見た方がいいよ」
と、しつこく言うので頭にきましたが、分からないんだと思い、
「シワなんて、言われてもどうしようもないでしょ？ 見たらなんなのよ！ 自分も言われたら嫌でしょ？ 言われて嫌なことは、人には言わないものよ」
と言うと、彼はなんとこう言ったのです。
モトオ「え、全然！ オレは全然酷いと思わないけど。 むしろ、そういうことは、自分では分かんないから言って欲しいですね。」
呆れました。だったらと、お返しに
「じゃあ、ずっと言わないでおいてあげてたけど、あなたのおでこのシワもひどいよ。 いつも怒ってるから、深く刻まれたんじゃない？
どうするの？ 言われてどうにか、できるの？」
と言ってやると、黙ってなにも言わなくなりました。
モトオには、私が子供と笑っていることよりも、彼が醜いと思う私の顔のシワしか目に入らないようでした。
協力しない人
結婚は「お互い様」です。お互い、嫌なことがあっても、お互い様なので、相手のことを思って我慢したりします。
家族は最小単位の共同体ですから、言われなくても協力するのが当たり前。一番大切にしなければいけない存在なのです。
なのに、モトオは家族を誰よりも粗末に扱う人でした。
苦楽を共にしようと結婚した相手が、そういう人だったのは残念ですが、当時は残念では済まされない気持ちでした。
人の人生なんだと思ってるんだと腹が立って仕方がなかったのです。
こちらは好きで結婚していたのに、求婚してきたモトオは人のことなど興味すらなく、私からしたら明らかに裏切り行為でした。
彼は自分に対してもカモフラージュして生きていましたから、すぐには正体が分かりませんでした。
ネガティヴ・オーラに巻き込まれないよう、私は彼の顔色を伺うようになっていました。
まさか不機嫌でコントロールされるとは思ってもいなかったのですが、気がついたら、いつの間にか家事育児のほとんどをワンオペでさせられていて、自分の仕事どころではなくなっていました。ムスメもモトオに似て、大変な娘でしたからね。
絵の仕事をするという私の夢を叶える為なら、なんでもすると言っていたのは嘘でした。上手い話をする人は詐欺と思えとよく言いますが、その通りです。うまいことを言って、近寄ってくる相手には気をつけなければいけないのでした。ホント恋は盲目。何も見えてませんでした。
不機嫌や無視、野次、暴言は、れっきとした家庭内暴力なのですが、人は疲れやストレスから、そういうことをうっかり言ったりやったりしてしまう時があります。なので、そういう時との違いに気づくのはかなり難しいものです。
特に女性でいると、やって当たり前のことが多く、場の雰囲気などから仕方なく耐えさせられることが多い気がします。
中でも日本の女性は、発達障害が関わらなくても我慢させられることに慣れさせられてしまっているように思いますから、悪い男に騙されて長く留まってしまう環境は、日本には揃っているのです。
なんでも人のせいにする人
モトオの脳を通すと、自分が「やったこと」は、驚くほどすべて「やられたこと」に変換されました。
冗談かと思うほど、とにかくなんでも人のせいにするので、実際、そんな馬鹿なことはないと思っていた私は、本気で冗談だと思っていたくらいです。ずっと変わってて面白い人だと思っていましたが、本人は大真面目だったのです。
これには、認知の歪みが関係しているようです。
特性から客観視できないのは仕方ないことですが、診断がついた後もなお、家族からの注意や指摘が聞けず、威張り腐るのは問題でした。
どんなに話しても話が通じない人は、普通に見えても認知能力が低い可能性があると思った方が良さそうです。
当時、私は会話の時、よく仲介者が欲しいと思っていました。
話が通じないことも『常識がない！』と言って、私のせいにされていたからです。
こうなると、もうどうしようもない。自分が１００％正しいと思っている人に何を言っても無駄ですから。
医者や行政に相談しましたが、当時は何の支援もなく、ビデオを撮るというアドバイスを貰いましたが、実際ビデオも音声を取っても、私自身が客観的になれるツールとして役立っただけで、離婚調停でさえも、なんの役にも立ちませんでした。
当時は発達障害を詳しく知る人は少なく、誰にも信じてもらえませんでしたが、今は保健所や発達支援センターなど行政に相談すると、話し合い時の仲介者などの支援が受けられるところもあるようですから、困っている人は相談してみるといいかと思います。
被害者を装うDV加害者
結局、モトオは歪んだ認知のまま、家族を敵とみなして家を出ていきましたが、離婚調停を起こしてきた際の申し出内容が『私から精神的虐待を受けた』というのには、さすがに怒り心頭でした。
加害者である夫が、弁護士まで雇って、自分こそが被害者だと言ってきたのです。
これほどの侮辱はないと思いますが、調停員もしばらくモトオの言い分を信じていましたから、私は完全に四面楚歌でした。そんな中、下記のようなDV関連の記事を見つけ、世の中には分かってくれている人もいるのだと励まされたものです。
”DVの加害者とは自分が被害者だと思っている男性だ” 信田さよ子／臨床心理士
現代ビジネス
つまり、パターンがあるということ。モトオは、善人に見えるDV加害者で、そのパターンに当てはまるヤバい奴でした。
調停では、仲介者を通したことで、彼が家族のことを全く考えていないこと、認知の歪みがそこまでかってくらい酷かったことなどが、よく分かりました。
散々ひどい目に遭わされてきた私から見ても不機嫌でない時のモトオは、おとなしくて優しそうに見え、不機嫌な時が嘘のように思えるのです。
けど、それがDVパターンだと言いますから、闇は深いのでした。
客観的に見ると、私は積極的で、ものをはっきり言うタイプなので、夫が妻から精神的虐待を受けたと訴えれば、おとなしそうに見える夫ですから、人はいとも簡単に私を恐妻だと信じ込みました。
汚名を晴らす作業から始まりましたから、調停にはたっぷり１年掛かりました。
発達障害が関わると認知の歪みのせいで、目に見えている事実は、大きく異なっていたりします。まさかの真逆だったりすることもあるので、それはもうホラーか、サイコパスかって感じですが、決して珍しいことではないのです。
どうでしょう？ カサンドラが怒りやすく、攻撃的になってしまう理由が少しは分かっていただけたでしょうか。カサンドラの実態を少しでも多くの人に知っていただければ幸いです。
因みにイラストに描いたメデューサは、当時の自分に当てはまると思ったので描きました。
怒りに燃えていた時、きっとこんなんだったんじゃないかと思います。メデューサは、カサンドラと同じくギリシャ神話に出てきますが、私と話し合うたび、モトオは文字通り、石になったかのように凍りついてましたから、今思えば面白いくらいピッタリです。
このメデューサも神話では、元は美人姉妹だったそうで、その美しさ故、恨まれて怪物にされてしまったらしく、カサンドラ同様、ひどい話しです。
それにしても、発達関連、ギリシャ神話の登場人物に当てはまるのは、なんなんでしょうね。
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