当たり前にすることだと思っていた
「牛乳がないから、ちょっと買ってきて」や「今すぐ犬を散歩に連れてって」など、普段暮らしていると、今すぐ手を貸して欲しいことはよくあることです。
家族が協力し合うのは当たり前だと思っていましたから、夫が協力しない上、子供までもが、お手伝いを拒否する状況は、謎過ぎて、呪われてるんじゃないかとさえ思ったほどでした。
でもこれは、我が家のASD気質の特性だったのです。
そのモトオとムスメには共通点がたくさんありましたが、二人は急なおつかいが出来ませんでした。
ASDの人が急な変化に弱いのは有名ですが、この急というのは、物事の大きさに関係なく、どんな些細なことでも、急であるが故に受け入れられず、更には不機嫌になる原因になったりするのでした。
大変になる時は、大体予期しなかったり、急だったりするものですが、そういう理由から、大変な時ほど私は孤立。やりたくなくて怒る二人に代わって全ての仕事をやらなければいけなくなりました。
私が困っていても、気づかない。忙しくて、助けを求めても、面倒だ、疲れると言って拒否される。八方塞がりとはこの事でした。わがままと取られても仕方ありませんが、気に入らないのが、二人は、外ではきちんとやるところでした。
ある意味、私にだけかけられた呪いと言っても過言ではないのかもしれません。
毎回、頼むと「なんで?!」と不機嫌にされたり、ワケの分からない問答につきあわされたりするのは、嫌ですから、自分でやってしまった方が早いし、気持ちも楽でした。
いつか分かってくれるだろうという私の普通の判断は、のちに大間違いだったと思い知らされます。実際、発達障害が関わっていると、この不機嫌になるから、とりあえずやってあげようという判断は、誰のためにもなるず、本人の歪んだ認知を確固たるものにしてしまうものだったのです。
モトオの場合
普段のモトオは、家で上下スエットを着ていましたが、特にみっともない訳ではなく、近所のコンビニはそんな人で溢れているという格好でした。
なのに、モトオは「こんな格好で外に出れるわけないだろう!?」と言って、全身総着替え。といっても、スエットからジーンズとトレーナーになるだけなのですが。
とにかく、他人の目が気になる人だったのです。彼の場合、着替えの他に、ヘアセットと眉毛のブロウもプラスされるので、外へ出るのに最短でも2〜30分は掛かるのでした。
「今すぐ」という人の言葉より、まず自分のこだわりを優先するのが彼でした。
これが犬の散歩となると最悪でした。外でしか排泄をしない犬が、我慢しているのになかなか出ないのでした。本当に時間がかかるので、我慢しきれなかった犬が粗相をしてしまうことはしょっちゅうでした。私がモトオにそれを注意すると、キレるので、結局彼が犬の散歩をするのは週にたったの一回夕方にするだけとなりました。
ムスメの場合
これはムスメが高3の時の話。ムスメに宅配便で書類を出しにコンビニへ行ってと頼んだ時のこと。案の定、嫌な返事が返ってきましたが、私はそうくると思っていたので、
「やったことない!」
と、ムスメが怒ってきても
「教えるよ」
と静かに返し、
「どうやったらいいか分かんない!」
と、全身でごねてきても
「紙に書くから、大丈夫」
といい感じに対応して、遂には引き受けて貰うことができたのでした。
ただ、着替えのことは想定外でした。ムスメはマイペースで着替え始め、髪を整えたりしてなかなか出ようとしないのです。時間をかけて承諾させたので、それ以上時間をとりたくありませんでした。
「集配の時間があるから、着替えないで、今すぐ行ってくれる?」
「着替えなかったら恥ずかしい。 着替えるくらい好きにさせてよ」
と言うのです。もっと催促したいのを我慢して、身支度の様子を見ていましたが、自分のペースを崩すことなく、出かける準備を優先させているムスメに、私はとうとうイライラして怒ってしまっていました。
以前は、速攻で怒っていたので、大分代わったのですが、彼女からしてみれば、そう簡単に変わることができることではなかったようでした。
彼女からしたら、
『ママがやるべきことを、なんで私がやらなくちゃいけないの!? 私は、おつかいなんて、やったことなんて、ないのに!』
という状態だったのだと思います。普通なら、成長とともに自分でやろうと思うわけですが、彼女は苦手なことをそれまで長い間私に押し付けていたので、それが当たり前になって、自分からやろうとはしないのでした。
結局
私が、コンビニへ行きました。月を眺めながらゆっくり行って、書類を出し、またゆっくり帰ってきました。そもそもこの書類も、彼女の学校の書類で、締め切りが間に合うかどうかだったので、お願いしたのに。どうでもいいやと思いました。
他人を意識することを人一倍嫌がるくせに、人からどう思われるかばかり気にするムスメは矛盾だらけですが、これも私がどんなに言ったところで変わることはなく、自分で気づいて、折り合いをつけるしかないことなのだと思いました。
そして、私はそろそろお世話係をやめて、いろいろ手放さなければいけないと、つくづく思ったのでした。
その日、私は夕飯を作りませんでした。一人冷蔵庫にあるもので済ませました。電子レンジをフル回転させて温め直している間も頑固なムスメは出て来ないので、これももういいやと諦めました。いつもなら、お腹が空いて可哀想と、声をかけてしまっていましたが、これも良くないのだと思いました。
自分から動くことをさせないと、いつまでも人が言ってくれるのを待つようになります。そのまま黙って寝る支度をしていると、私が寝る間際になってやっと謝りにきました。本当に時間が掛かりますが、積み重ねしかないのでしょう。
夜中の12時。ムスメは自分で冷蔵庫から何か出して食事を始めたようでした。いつもなら横でつきあったりする私でしたが、ずっと喉の調子が悪かったので、とっとと先に寝ました。きっとモトオと一緒で、可哀想だからと私が構いすぎているのも問題なんだなと思いました。
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